出版紹介「サイバーセキュリティと個人情報保護」単著:畠中伸敏,出版社:日科技連出版社,価格:3740円,発売日:2025年12月16日
カバーフラップ(出版社記載)
本書の前半では,ヨーロッパにおける個人情報の考え方を解説し,日本とEUの法律の建ての違いを述べる. 後半では,これらの重要な情報を護るため,CMMから派生したITILの観点で,ランサムウェア攻撃を受けた医療機関の問題の処理の仕方を分析し,予防処置としての脆弱性診断サービス,ペネトレーション,標的型メール訓練を解説し,情報システムのバックアップの重要性を説く.事後的処置として,汚染したシステムの分離を紹介する.また,サイバー攻撃,特にランサムウェアから組織を護るための訓練方法やセキュリティチェックリストを紹介している.
まえがき
個人情報保護法を起案した堀部政男は,日本の保護法とEUのGDPRの違いについて,日本の個人情報保護法の成立は,早稲田大学で開催された江沢民の“宴の宵”への参加者名が流出したことが経緯となっており,EUの場合は,ユダヤ人大量虐殺のホロコストが経緯となっていると講演した.GDPRは日本の個人情報保護法に比べて,罰則などが厳しめである.
加えるに,法律の“建て”が違っている.日本の法律では,個人情報の漏洩は委託元に責任があるというのに対して,EUは個人情報の取扱者を管理者と処理者の二つに分け,この両方に対して,主務所のアクションを直接,取れるようにしている.
本書では,このことを念頭において,お読み願いたい.さらに,最近のサイバー攻撃は,個人情報の漏洩と結びつくことが多く,この観点でも,いかに,情報セキュリティ技術を用いて,サイバー攻撃対策を行うかについても,その方法を紹介した.
ところで,平成29(2017)年5月20日の「個人情報保護法」の改正にともなって,同年12月20日に「個人情報保護マネジメントシステム―要求事項」が改正された. 情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の保護の対象は企業活動の基となる「情報」であり,個人情報マネジメントシステム(PMS)は本人が所有し本人の自己の管理下に置かれるべき「個人情報」である.PMSではリスクを「個人情報リスク」と定義し,ISMSでは「リスク」の定義をISO 31000の定義に準拠しマネジメントシステムの欠陥により生じる統制リスクの考え方を導入している.
しかし,平成29年12月20日に改正された「個人情報保護マネジメントシステム―要求事項」はISMSとの差異や矛盾点を解消することなく,受審側の運用や審査現場での課題を残すこととなった.一方,EUでは,1998年に実施したEUデータ保護指令を2018年5月24日に廃止した.これに代わり,2016年5月24日に発効した,欧州経済領域(European Economic Area: EEA,EU加盟国28ヵ国,ノルウェー,アイスランド,リヒテンシュタイン)から個人データを域外に持ち出すことを原則禁止する「EU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation : GDPR)を,2018年5月25日に施行した.
日本が「十分性認定」を受けることで,EEA圏在住者の同意をもとに個人データの利用が可能となる.しかし,日本企業の80%が対策を終えていないことから,GDPRに違反すると,最大で全世界の年間売上高の4%もしくは2,000万ユーロ(高額な方を適用)の制裁金が課せられる.違反に伴う制裁金や訴訟などの新たなリスクの懸念を生じている.
この状況下,日本の改正個人情報保護法,JIS Q 15001:2017では,日本企業がEU域内から,EU域外へ個人データを移転する場合は,利用目的や取得の経緯を記録する.日本では匿名のデータに加工する場合は,元の個人情報と加工済みデータの関係を復元できないとした.
加うるに,GDPRでは,「プライバシー・バイ・デザイン」「オプトイン原則」「個人情報漏えい時の通知義務」「データ持ち運びの権利」「忘れられる権利」「罰則の強化」への対応を求めており,未対応な企業に取って日欧間のデータ移転のさらなる障壁となる.
本書は,令和5(2023)年からJIPDECで新JIS(JIS Q 15001:2023)対応の審査の申請が始まることを契機に,パブリッククラウドにおける個人識別情報保護の実践規範(ISO/IEC 27018),個人識別可能な情報保護の実践規範(ISO/IEC 29151),プライバシー影響評価(PIA,ISO/IEC 29134),プライバシー保護の枠組み及び原則(ISO/IEC 29100(JIS X 9250))を解説し,個人情報のフレームワーク,用語の整合性を図る.次にGDPRの対応策を示唆し個人情報保護の新たなるリスクの懸念を払拭する.また,ISMSとPMSの差異を明確にし,ISMSとPMSの融合をいかに図るかを解説するものである.
本書の標的型攻撃メール訓練の文案例については松田利夫氏(元山梨学院大学教授)から,付録1については永井庸次氏(元日立製作所ひだちなか総合病院院長)から資料提供を受けた.感謝の意を表します. 末筆となるが,本書の出版と編集にあたって,多大なる協力を頂いた,日科技連出版社の社長の戸田節文氏,編集部長の鈴木兄宏氏,課長の石田新氏に,厚くお礼申し上げます.
2025年12月吉日 湯河原にて 畠中 伸敏
